自然療法プログラム体験記 ー Yちゃん

統合失調症は克服できる
  
Yちゃんが初めてファミリーを訪れたのは2010年の5月。2009年の夏に放映されたテレビ番組「自給自足物語」を見たことがきっかけでした。大勢の家族に囲まれた明るく楽しそうな食卓と、ダジャレを言っていたいさどんが印象的だったそうです。23歳の時に初めて幻聴の症状が現われ、28歳の時には幻聴、幻覚、幻触に悩まされ仕事も辞めざるを得なかったYちゃんは自殺願望が強くなり、それを病院の先生に打ち明けると「精神病院に入院しなさい」と言われました。そして、それを拒んだYちゃんは思い切って木の花ファミリーでケア滞在をしてみようと決断したのでした。
 
Yちゃんは彼女の症状が悪化したために鬱病になってしまった61歳の父親とともに木の花を訪問しました。Yちゃんの統合失調症と父親の鬱病のWケア面談が行なわれました。その時のことをYちゃんはこう語ります。
「初対面のいさどんにずばっと自分の本質を突かれたことがとても印象に残っています。いさどんに『あなたは二重人格で嘘つきだね』と言われて、その通りだったので、『この人は本物だ、この人を信じてここでやってみよう』と思い、ケアをスタートすることにしたのです。」
 
ケア滞在の当初は、日常生活が送りにくい状態で、緊張や不安、幻聴の罵詈雑言もひどく、みんなとしっかりコミュニケーションが取れないような状態でした。しかし、みんなと一緒に農作業や家事などをしていく中でみんなが善意から接してくれているのが感じられて、徐々にYちゃんの心身の硬さがとれていきました。薬については、「ここに来たらみんなやめられるよ」と聞き、滞在1週間後ぐらいから少しずつ減らしていった結果、10日後には断薬することができました。

ケア滞在の前半を振り返り、Yちゃんは次のように語りました。

「日々の中で自己観察したことを日記に事細かく書いたり、毎晩の大人会議を含め生活の中でみんなが真剣に心を学ぶ姿勢から自分も学んでいくことができました。時には、大人会議で話題にのぼっているメンバーに感情移入してしまい、心が不安定になったこともありました。でも、その後みんなから色々と声かけをしてもらってわかったのは、みんなが伝えてくれるベースにはその人を想う愛があるということです。
また、いさどんとの面談もとても効果がありました。面談ではいさどんからその時その時の課題が与えられるのですが、その結果を受けてまた次の面談で新しい課題が与えられていくのです。いさどんから『あなたは傲慢で自意識が強いから自分の癖を認めにくい』と言われたことは、私の人生にとって大きな出来事でした。とにかくそういう自分であるということを認識できるようにして努力していきました。
初期の日記では病気の症状といった物理的なことばかり記されていましたが、次第に『自分はこういうふうに感じている』という心の動きを意識して書くようになり、いさどんからのアドバイス通り、冷静で客観的な視点を身につけられるようにした結果、今の健全な状態につながっていったのだと思います。
一番難関だった課題は、過去のトラウマの分析をすることでした。自意識の強い私に自分の非を認めたくないという自己防衛本能が働いていたからでしょう。ケア滞在2ヶ月後、徐々に自己防衛をしないでいられるようになり、自分の心を見る精度が高まった段階で面談が行なわれました。そこではいさどんから私が二重人格になった経緯を次のように伝えられました。
『幼い頃から母親や周囲に対して感情を抑圧してきており、就職してからも感情を抑圧してしまっていた。幻聴が始まった23歳の時に、今まで抑えていた感情が自分の手を離れて暴走し、コントロール出来なくなり、現実逃避の果てに別の人格(自分を罵倒する声)を作ってしまったのだろう。』
いさどんがそれを解明したのは、私の心の中に私が病気となる原因を作った種があることに気づいた頃でした。それまでの私では自分の病気を両親や環境のせいにしていたので、いさどんの言っていることをそのまま受け入れることができなかったかもしれません。その後は自分の感情を正直に表現していきながら、自己コントロールしていくことがもっとも大きなテーマとなりました。」

この頃のYちゃんは未だ幻聴があるにも関わらず、思考がどんどん秩序だったものとなり、彼女が書く日記や大人会議での発言も客観性を帯びた安定したものになってきました。また、正直を出せず真面目で硬かったYちゃんに、お笑い的な個性が現われ出したのもこの頃です。さらに、表情も明るくなって顔つきも健康になってきました。

そして、ケア滞在の後半から現在に至るまでをYちゃんはこう振り返ります。

「引き続き、自分ともう一人の人格を同一化する作業を第一に進めていきました。分裂していようがいまいが、同じ私だという認識を持つことが大切だと思い、自分が病気だというよりも自分の心がそういう病的な状態をつくったのだと捉えるようにしていました。いさどんとの最後の面談では、『そういったことに出会う心の種がある自分を知って、自己コントロールしていきなさい。実践あるのみだよ』ということを伝えられたと記憶しています。私は傲慢だからこそ謙虚に感謝し、自意識が強いからこそ自分をよく知ってコントロールしていくことが大切なのだと思っています。特に謙虚に学ぶことは本当に大切な人間の根幹だと思うのです。それに気づけた私はありがたいことを教えてもらって、本当に感謝しています。

ケアを卒業し、生活体験を4ヶ月半、その後アルバイトでウエイトレスを1年2ヶ月、コンビニエンスストアで働き始めて1年になりました。まだまだ自分をコントロールすることが出来ず、不安定に陥ることもありますが、それは自分がまだまだ未熟だということを教えてもらっているのだと捉えています。私は自分の病を克服することができ、この病気を通して一つ勲章をいただいたような気もしています。今後は少しずつですが、同じ病を持つ人の力になれたらと思っています。2013年春より、福祉の専門学校の通信課に入学し、精神障害を持っている人の支援をする精神保健福祉士の資格を取得しようと、日々勉強に励んでいます。

また、鬱病の父親については、私がケア滞在をし始めた頃には入院していましたが、今は退院して自宅で療養中です。ここに来るまでは、私が父親をどうにかしてあげたかった。でも、どうにかしたいと思えば思うほど、自分の症状が悪化していったのです。今はもっと客観的に父親のことを捉えることができ、彼の中に鬱病になる種があるのだから、残りの人生を健全に生きるために木の花でケアを受けたらいいなと思うことはあります。実際、何度も木の花に来ることを勧めましたが、自分のやり方があるみたいです。頑固な父なので、本当に行き詰まり、私みたいにお手上げになれば相談してくると思いますが、今はまだ旬ではないと思い、時々電話をして状況を聞きながら見守っています。だから、木の花は素晴らしい環境ではあるけれど、一番は本人のケアに取り組もうとする姿勢が大切だと思います。」

Yちゃんのケースを振り返って、いさどんは次のように語りました。
「まず、Yちゃんと初めて面談をした時に、『この人は本当に統合失調症なのだろうか』と疑いを持って接していたのを記憶しています。統合失調症を一般で言われているように一生治らない病気と捉えるのではなく、『この人は良くなるかもしれない』という可能性を感覚的に捉えて取り組んだら、統合失調症でも良くなる場合があるのです。実際にYちゃんと接してみて、僕はどのように本人から『自分が病気である』という思い込みを外していくか、そして思い込みを外したかわりにそれをどのように捉えていくか、ということを伝えていった記憶があります。結果、薬が必要なくなり、薬がなくなっても症状が変わらない状態になってきました。Yちゃんはケアとして滞在する期間が他の人よりも長かったのですが、徐々にYちゃん本来の健康な性質が出てきました。
木の花では常に当事者に対して問題事を治してあげるのではなく、サポートに徹することにより、本人が自らの中から気づいて改善を図っていくよう促しています。私たちも当事者の気づきのプロセスに出会うことによって、その新たな事例から学びをいただき、そしてその学びが次にまた訪れるであろう当事者のために生かされていくのです。そういう意味では私たちもそういった事例をいただきながら、常に学ばせていただいていることに日々感謝しているというのが私たちのケアに対する姿勢です。」